【書評】新しい日本 新しい経営 稲盛和夫 1998年 PHP文庫
目次
はじめに
本書は、稲盛和夫が世界規模の視点から、日本企業はいかにあるべきか、経営とは何かを論じた一冊である。著者自身の経験をもとに、その経営観がどのように形成されてきたのかが丁寧に語られている点が特徴的。
当社のような規模な会社の経営者にとって、「世界規模で経営を考える」という視点は一見すると遠い存在に感じられる。しかし本書を読み進めるうちに、稲盛和夫がその視点に至った思考の積み重ねは、規模の大小を問わず、誰もが実践できるものであると感じるようになった。
本書の概要と評価
本書では、「経営の本質」として十一の項目が提示されている。事業の目的や目標の明確化から始まり、努力、利益意識、値決め、そして経営者の意思や姿勢に至るまで、経営に必要な考え方が網羅的に示されている。
これらは単なる精神論ではなく、著者自身が実践し、成果を上げてきた経験に裏打ちされた指針である点に説得力がある。
一般には「経営十二ヶ条」として知られているが、本書が書かれた1998年時点では十一項目で整理されていた。その後、「意思力で経営は決まる」が「経営は強い意志で決まる」と表現を変え、第十二条としてまとめられたが、内容そのものに大きな違いはない。時代や読者に応じて表現を変えながらも、経営の本質は一貫している。この点に、稲盛和夫の思想の強さを感じた。
流行の経営論やマネジメント手法が次々と登場する現代においても、こうした王道的な考え方で成果を上げてきた稲盛の姿勢は示唆に富んでいる。私自身も「稼げば何でもOK」という風潮に流されるのではなく、王道的な経営を積み重ねていきたいと強く感じた。
印象に残った三つのポイント
一つ目:企業は「小さな森」であるという考え方
本書で特に印象に残ったのが、企業を「小さな森」に例えた次の一節である。
「企業は小さな森である。経営者は企業の森に住んでいる従業員をどう生かしていくのか、それを考えなければならない。小さな森の住人である従業員が栄えなければ、自分も栄えることはできない。従業員を含め、共に働くすべての人たちを幸せにして、企業という小さな森を立派にしていきたいという志が大切である。
社会は、さらに大きな森である。そこには、資本を提供してくれる株主があり、部品や資材を供給してくれる会社があり、製品を買ってくれる顧客がある。このうちのいずれが欠けても、会社は成り立っていけない。企業にとって社会は一種の循環系であり、かつ企業の存立基盤なのである。社会の森の循環系のなかで、従業員、株主、消費者や取引先といった社会の構成員に利潤を還流させ、この循環系を維持することが企業自らの存続の条件となる。」
この考え方は、本書前半で述べられている「大企業のあり方」や「社会との関係」にもつながっている。企業は社会の中で単独に存在するものではなく、社会という大きな循環の中で生かされている存在である。自分だけが得をすればよいという考え方では、企業は長く存続できない。
会社において、まず考えなければならないのは従業員の存在である。彼らをどう守り、どう成長させ、どう幸せにするか。そこから目を背けていては、企業としての発展はあり得ない。
恥ずかしい話だが、起業当初の私はそのような視点を持っていなかった。自分さえよければよいという考えに近く、甘えも多かった。しかし従業員が増え、自分を信じて働いてくれる人が増えるにつれ、責任の重さを実感するようになった。
まずは従業員を幸せにすること。それが経営者としての自分の仕事であり、その結果として自社「小さな森」を立派に育てていきたいと考えるようになった。
二つ目:「本質を学ぶ」ということ
二つ目は、いわゆる「経営十二ヶ条」に象徴される「経営の本質」についてである。
第1条 事業の目的、意義を明確にする
第2条 具体的な目標を立てる
第3条 強烈な願望を心に抱く
第4条 誰にも負けない努力をする
第5条 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
第6条 値決めは経営
第7条 経営は強い意志で決まる
第8条 燃える闘魂
第9条 勇気をもって事に当たる
第10条 常に創造的な仕事をする
第11条 思いやりの心で誠実に
第12条 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で
これらは読んでみると、「当たり前のこと」ばかりである。しかし、実際に行動として継続することは非常に難しい。
例えば第一条の「事業の目的、意義を明確にする」。理念を掲げている会社は多いが、それを従業員が十分に理解し、経営者自身が理念に沿った行動を取れている会社は決して多くないだろう。理念を掲げ、それを本気で実践できている会社は、全体の一割にも満たないのではないかと感じる。
私自身も長い間、「理念よりも結果が大事だ」というスタンスで仕事をしてきた。理念がなくても業績を上げている会社があるのも事実である。しかし、自分自身は大きな成果を上げることができなかった。
今振り返ると、その原因の一つは理念の欠如にあったと感じている。理念とは、経営者自身の価値観や生き方からにじみ出る行動指針であり、それが商品やサービスに反映されてこそ強みとなる。
「儲かりそうだからやる」という安易な発想では、長く続く経営は難しい。本当の意味で理念の重要性を理解するまでに、ずいぶん遠回りをしてしまった。
三つ目:心の持ち方が世界を決める
三つ目は、心の持ち方に関するエピソードである。円福寺の老師の話として紹介されている次の言葉が強く印象に残った。
「あの世には地獄も極楽もある。もっとも、おまえが思っているほどの違いはない。外見上は地獄と極楽はまったく同じだ。違っているのは、そこに住んでいる人の心だけなんだよ。地獄は利己的な人が住んでおり、極楽には利他の心を持っている人が住んでいる。」
同じ環境、同じ状況であっても、それを地獄にするか極楽にするかは、そこにいる人間の心次第である。人の悩みの大半が人間関係に起因していることを考えれば、この教えは非常に本質的だ。
まずは自分の心がけを正すこと。そして、どうしても合わない相手とは無理に変えようとせず、距離を取る。最後に、心がけのよい人と付き合う。この積み重ねが、人生においても、経営においても「幸せな環境」をつくるのだと感じた。
会社経営においても同様である。心がけのよい従業員、取引先とは長く良い関係が続き、そうでない相手とは自然と続かなくなる。結果として、会社は幸せな方向へ進んでいく。
おわりに(まとめ)
本書の冒頭では、1998年当時の日本や世界の在り方が高い視点から語られており、当初は自分とは縁遠い話だと感じた。しかし読み進めるうちに、その根底にある考え方は、今の自分にも実践できるものだと気づかされた。
今すぐ同じ次元に立つことはできなくても、10年後にはこのような視点で物事を考えられる経営者になりたい。そのためにまずは、家族、従業員、そしてお客様の物心両面の幸福を追求することから始めたい。
その思いを少しずつ広げていくことこそが、「新しい日本」「新しい経営」につながるのではないかと感じた。
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