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【書評】実践経営問答 稲盛和夫

【書評】実践経営問答 稲盛和夫

はじめに

本書は、盛和塾の例会において交わされた、稲盛和夫と経営者たちとの質疑応答の一部をまとめたものである。社長業の要諦、人心掌握の要諦、新規事業進出の考え方など、実際の経営現場から発せられた問いに対する回答が中心であり、理論書というよりも極めて実践的な内容となっている。

扱われている質問は、小規模企業の経営者から見ると、正直なところ次元が高いと感じる。その理由は二つある。
一つ目は、質問者たちの企業規模である。本書に登場する中で最も規模が小さいと思われる企業でさえ、一般的な小規模企業からはすでに一段上のフェーズにある。
二つ目は、質問者自身がすでに稲盛和夫の思想を経営に取り入れ、その延長線上で生じた課題を問いかけている点である。

特に強く感じたのは、「自社はまだ個人商店の域を出ていない」という現実である。経営者として同じ土俵に立てていない――そう痛感させられた。本書の中に、「『同じ一生なら、もっと多くの人から喜ばれるよう経営してみよう』と思い、経営するのです」という言葉がある。この覚悟を本気で持ったとき、初めて本書の質問者たちのような、レベルの高い問いが生まれるのだろう。

印象に残った三つのポイント

本書を通して、特に今の自分に必要だと感じた点は、以下の三つである。

目標設定

目標設定についての質問に対し、稲盛和夫は次のように答えている。

「結論から申し上げれば、経営目標を設定するために適切な手順や基準があるわけではありません。経営目標というものは、そのような形式を問題とするようなものではなく、経営者の「こうしたい」という強い思いが表れたものでなくてはならないのです。そして、経営者は社員全員に「社長が決めたのなら、いくら無理をしてでも、必ず達成しよう」と思わしめることができなくてはなりません。」

別の著書でも、「経営者として『こうありたい』と思う数字を持て」と語られている。
しかし現実には、「昨年がこの数字だったから今年も同じでいいだろう」という惰性や、「これくらい儲けたい」という根拠のない願望で目標が決まってはいないだろうか。それでは、誰もついてこない。

目標とは、目的から逆算され、具体的な行動に落とし込まれて初めて意味を持つ。
たとえば当社であれば、「営業名人を全国の中小企業に使っていただき、多くの企業を幸せにする」という目的がある。そのために今年は認知を広げる年と定め、社長はSNSを通じて前面に立つ。営業はそれを活用して顧客に説明し、開発は要望を機能として形にし、会計は日々正確な数字を積み上げる。部門ごとに一人当たりの採算性という具体的な数字を持たせる。

このように、目標が行動を生み、組織を動かす。その設計こそが、経営者の仕事なのだと改めて理解した。

多角化について

新規事業・多角化に関する問いに対して、稲盛和夫は次のように述べている。

「私は、中小企業が新規事業、多角化に成功する秘訣は、まず得意技を持ち、徹底的にそれを磨くことから始まると思うのです。自分の得意技、特徴、何が強いのかをはっきりさせなければならないと思っています。」

本来、事業は一点集中で特化すべきである。しかし、小規模事業者にとって難しいのは、参入した市場自体が小さく、成長余地が限られている場合だ。その際、多角化は避けられない選択となる。

重要なのは、「何を軸に多角化するか」である。
技術力が強みであれば、既存顧客に対して技術を活かした新分野を提案する。営業力が強みであれば、既存技術を別市場に展開する。どちらが正解かは企業によって異なるが、自社の強みを曖昧にしたままの多角化は失敗する。

多角化とは、逃げではなく、強みの延長線上で行う戦略であることを改めて認識させられた。

燃える闘魂について

「燃える闘魂」という言葉について、稲盛和夫は次のように説明している。

「そういう格闘家のように、もともと勝ち気な個性を持っている人は確かにいます。しかし、私が話している闘魂とは、そういう粗野な、粗雑な闘魂ではなくて、母親が持つ闘魂なのですよ。子供が襲われようとしたとき、母親が佉まず外敵に挑んでいくでしょう。あれです。」

初めてこの言葉を聞いたとき、体育会系の勝気な性格を想像していた。しかし、ここで語られているのはそれとは違う。静かだが、決して折れない意志。守るべきもののために、命がけで立ち上がる覚悟である。

たとえば『キン肉マン』の主人公・キン肉スグルは、普段は頼りない存在として描かれる。しかし仲間のためとなれば、火事場のクソ力を発揮し、どんな逆境でも立ち向かう。この「誰かのために」という思いから生まれる闘志こそが、稲盛和夫の言う燃える闘魂なのだろう。

経営者に必要なのは、感情的な闘争心ではなく、世の中や社員を守り抜くための、静かで強い覚悟なのだと感じた。

まとめ

盛和塾という実践の場で交わされた質疑応答だけあって、本書の内容は極めて具体的である。そして、すべての回答に一貫性があるのは、稲盛和夫が明確な原理原則を持って経営判断を行っているからだ。

その原理原則は、社是、理念、そして経営十二ヶ条に集約されている。

社是
常に公明正大謙虚な心で仕事にあたり天を敬い人を愛し仕事を愛し会社を愛し 国を愛する心

理念
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。

経営12ヶ条

第1条 事業の目的、意義を明確にする
第2条 具体的な目標を立てる
第3条 強烈な願望を心に抱く
第4条 誰にも負けない努力をする
第5条 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
第6条 値決めは経営
第7条 経営は強い意志で決まる
第8条 燃える闘魂
第9条 勇気をもって事に当たる
第10条 常に創造的な仕事をする
第11条 思いやりの心で誠実に
第12条 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で

質疑応答の内容をこれらと照らし合わせると、すべてが同じ軸の上にあることがよく分かる。考え方が決してぶれていない。

経営の中で迷いが生じたとき、自分の判断が原理原則に沿っているかを問い直す。その重要性を、本書は静かに、しかし力強く教えてくれる一冊である。

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