【書評】アメーバ経営 稲盛和夫
はじめに
本書は、京セラの成長を支えてきた独自の組織運営手法「アメーバ経営」を、理念から実務レベルまで余すところなく解説した一冊である。背表紙に「門外不出の書」と記されている通り、その内容は抽象論に留まらず、実際の経営現場でどう運用するかという点まで踏み込んでいる。
アメーバ経営は一見すると「京セラのような大企業だからこそ可能な仕組み」と思われがちだ。しかし本書を読むと、その本質は組織を“事業として成り立つ最小単位”に分けることにあり、むしろ小規模事業者にこそ適している考え方であることがわかる。小規模事業者そのものが、すでに一つのアメーバとして成立しているからだ。
アメーバ経営と時間当たり生産性
アメーバ経営の中核にあるのが、「時間当たりの採算性」という考え方である。理屈だけを追えば単純に思えるが、実際に自社に当てはめようとすると、何を売上とし、何を経費とするのか、どの単位で測るのかなどの思考が求められる。
特に重要なのは、経営者が現場任せにせず、設計思想そのものに責任を持つことである。営業や開発を任せる一方で、採算の仕組みづくりだけは経営者自身が担わなければならない。だからこそ、社長と数名の組織規模のうちから、この仕組みを作っておくことが、将来の成長を大きく楽にする。
生産性の表し方は企業ごとに異なる。本書は「正解」を押し付けるのではなく、自社なりの生産性指標をどう設計すべきかのヒントを与えてくれる点に価値がある。
アメーバ経営の三つのポイント
理念の浸透と原則の徹底
アメーバ経営を機能させる前提として欠かせないのが、理念の浸透である。
各ユニットが自由に動ける仕組みだからこそ、共通の価値観がなければ組織は容易に分裂してしまう。
京セラでは
「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類・社会の進歩発展に貢献する」
という理念が、その軸として存在している。
その上で示されるアメーバ経営の目的は次の三つである。
・市場に直結した部門別採算制度の確立
・経営者意識を持つ人材の育成
・全員参加経営の実現
さらに、京セラ会計原則として
ダブルチェック、完璧主義、筋肉質経営、採算向上、キャッシュベース、ガラス張り経営
といった原則が示される。
これらを読むと、単に組織を細かく分けるだけでは意味がないことがよくわかる。特に「市場に直結した部門別採算」を成立させるためには、売上と経費を各ユニットで明確に測定できなければならない。経理や人事といった非採算部門でさえ、社内取引という形で可視化する必要がある。
また、「ダブルチェックの原則」は不正防止というより、人間の弱さから従業員を守るための仕組みである。性善説か性悪説かではなく、「誰にでも魔が差す可能性がある」という現実を前提にした制度設計が、経営者に求められている。
時間当り採算表を日々作る
理念と原則を理解し、組織をアメーバ化した後に必要となるのが、時間当たり採算表である。
稲盛和夫は本書の中で次のように述べている。
「社長だったころ、私は出張に出かけるとき、必ず時間当り採算表をカバンに入れて持ち歩き、暇さえあればそれを見ていた。そうすると、その部門の責任者やその部下の顔、工場の一角でみんなが働いている様子などを手にとるように理解することができた。」
つまり、この採算表は数字でありながら、会社の現場そのものを映し出す鏡なのである。
ここで重要なのは、税務会計ではなく経営会計である点だ。何を売上とし、何を経費とするのか。労務費をどう扱うのか。経営判断に必要な視点で、シンプルに設計する必要がある。
たとえば当社のような請負型のシステム開発では、「売上=納品時」ではなく、「売上=価値の進捗(出来高)」として分解する方が実態に合う。案件全体をフェーズ別・人時別に分け、日々の採算として捉えることで、初めて現場の状態が見えてくる。
最終的に経営陣は、全社付加価値(全アメーバ売上 − 全アメーバ経費)を人数で割った一人当たりの採算を見ることになる。
アメーバ経営は、採算の計算方法そのものを設計し、運用することこそ、経営者の仕事であると本書は教えている。
採算の考え方の具体例
例えば、400万円の案件があり、総工数を640時間とする。経費は20万円とする。進捗が計画通りに進む前提で、付加価値(売上−経費)は380万円となり、時間当たり付加価値は 約5,900円/時 である。
この付加価値には営業活動の貢献も含まれるため、付加価値のうち30%を営業部門に配賦(社内取引)し、残りを開発部門に配賦すると、時間当たり採算は次のように整理できる。
営業部門:1,770円/時
開発部門A:4,100円/時
営業は複数案件を並行して担当できるため、同じ1時間で別案件も回せる状態であれば、営業部門は別案件分の配賦も積み上がる。たとえば同条件の案件をもう1件並行できるなら、営業部門の採算は 3,540円/時 となる。
そして、進捗が遅れて総工数が700時間となったとする。同様に計算すると以下のように採算性が悪化することが明確にわかる。
営業部門:1,600円/時
開発部門A:3,800円/時
このように、時間当たり採算表を見ることで、進捗の遅れや非効率が即座に数字として表れ、現場の状態を具体的に把握することができる。
年度計画を立てる
アメーバ経営では、年度計画を「やらされるもの」にしないことが重要である。
会社全体の方針、各ユニットの実績、時間当たり採算表をもとに、各ユニットが自ら目標を立てる。自分たちで決めた目標だからこそ、達成に向けた主体的なエネルギーが生まれる。
目標は高すぎても意味がない。時間当たり採算表という現実的な指標があることで、「頑張れば届く目標」を設定でき、計画は単なる理想論ではなくなる。
まとめ
経営者の仕事とは何か?
本書を通じて、それはアメーバ経営が機能する仕組みを作り、日々チェックし続けることだと改めて気づかされる。
小規模事業の経営者は、どうしても現場業務に追われがちである。しかし、一定の売上規模に達した段階で、業務を任せ、経営へと軸足を移す仕組みを作らなければ成長は止まる。
本書は、アメーバ経営の思想から実践までを丁寧に示し、「経営者が本来やるべき仕事」を具体的に教えてくれる一冊である。
まずはできるところから始め、迷ったら本書に立ち返る。その積み重ねによって、京セラに通じる経営の仕組みが、自社にも少しずつ根付いていくはずだ。
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