【書評】今日、誰のために生きる?
「効率よく生きたいのなら、生まれてすぐ死ねばいい」
「効率よく生きたいのなら、生まれてすぐ死ねばいい」
本書は、そんな挑発的な言葉から始まる。タイパ(タイムパフォーマンス)が重視され、何をするにも「効率よく」「最短で」という価値観が広がっている現代。その考え方を、根本から問い直すようなメッセージである。
本書は、ペンキ画家のSHOGENさんが、アフリカ・タンザニアのブンジュ村で過ごした体験をもとに、「幸せを感じる心」について書いたものだ。
スマホとSNSによって、私たちはかつてないほど多くの情報を、瞬時に手に入れられるようになった。便利になった。効率も上がった。しかし、それによって私たちは、本当に幸せになったのだろうか。
情報は増えたのに、心が満たされない。人とのつながりは増えたのに、孤独を感じる。便利になったのに、なぜか忙しい。
本書は、そんな現代人に「幸せとは何なのか?」を問いかけている。
「現代」と「昔」は、どちらが幸せなのか
本書では、こんな問いが出てくる。
・鶏の卵を食べたことがあるか?
・薬が家にあるか?
・旅行に行ったことがあるか?
現代の私たちなら、多くの人が「Yes」と答えるだろう。
しかし、これらは江戸時代の庶民にとっては、簡単には手に入らないものだった。
それでも、当時の日本を訪れた外国人は、日本人について「幸せで満足している」「上機嫌な様子がゆきわたっている」「顔がいきいきしている」といった印象を残しているという。
もちろん、江戸時代の人々が現代人より幸せだったと単純に言い切ることはできない。ただ、ここには考えさせられるものがある。
物質的な豊かさと、心の豊かさは、必ずしも比例しない。
私たちは「もっと便利になれば」「もっとお金があれば」「もっと自由な時間があれば」と考えがちだ。
しかし、本当に必要なのは「持っているものを増やすこと」ではなく、「今あるものを感じる力」なのかもしれない。
ブンジュ村の幸せを感じる6つの秘訣
本書では、ショーゲンさんの「幸せを感じる」ブンジュ村での体験が具体的に説明されているが、それをまとめて、この6つとした。
・小さな幸せが、一番大きな幸せと気づく
・自分の本音を大切にする
・無駄を大切にする(効率を求めない・今ここを楽しむ)
・ダメな自分を「かわいい」とゆるす(完璧であろうとしない)
・一番身近な大自然、体の感性を取り戻す(五感を磨く)
・歓喜する
この中でも、特に印象に残ったのが、「小さな幸せが、一番大きな幸せだと気づく」という考え方と、「体の感性を取り戻す」という考え方だ。
幸せは「特別なこと」の中にあるのではない
『実力を100%発揮する方法』(シャザド・チャミン著)では、実力を発揮するためにはPQ(ポジティブ・インテリジェンス)を高めることが重要だと書かれていた。
そのPQを高めるトレーニングの一つとして、「食べ物の歯触りや香りを感じながら、味わって食べる」といった、五感に意識を向ける方法が紹介されており、この本と非常に近いものを感じた。
例えば、白米。普段なら、何となく口に運んでいる。しかし、目を閉じて、白米の香り、温度、食感、甘みを意識しながら食べてみる。すると、それだけで十分に美味しい。そして、幸せな気持ちになる。一方、スマホを見ながら白米を食べても特においしさは感じないだろう。
「白米を食べる」という行為そのものは、何も変わっていない。変わったのは、自分の意識だけだ。
スマホを見ながら食べれば、白米を食べているのに、意識はSNSの世界にある。目の前にある食事ではなく、画面の中に意識が飛んでいる。
そう考えると、私たちは「幸せになるために何かを手に入れる」のではなく、すでに目の前にある幸せを感じられていないだけなのかもしれない。
情報のシャワーから、一度離れてみる
現代は、スマホを開けば、ニュース、SNS、動画、広告、メッセージなど、大量の情報が次々と入ってくる。
情報が増えること自体は、決して悪いことではない。ただ、情報を取り込み続けることで、自分が何を感じているのか、何を欲しいと思っているのかが分からなくなることがある。
他人の生活を見て、「自分より楽しそうだ」「自分より成功している」「もっと頑張らなければ」と、知らないうちに比較してしまう。
そこに自分の感性はなく、ただの比較になってしまっている。だから、スマホを置く、SNSを閉じる、静かな場所で食事をする、外の音を聞く、風を感じる。感性を磨くことができる。
今日、誰のために生きる?
タイトルの「今日、誰のために生きる?」という問いは、非常に重い。
仕事のため?
家族のため?
会社のため?
SNSで評価されるため?
それとも、自分のため?
効率を追い求め、たくさんの情報を集め、より豊かで便利な生活を手に入れても、そこに「幸せを感じる心」がなければ、いつまでも満たされない。
逆に言えば、幸せとは、必ずしも特別な出来事ではない。目の前の白米を美味しいと感じること。誰かとの会話を楽しむこと。風や音を感じること。くだらないことで笑うこと。
そんな小さな瞬間の中に、すでに幸せは存在している。
「幸せになるために、もっと何かを手に入れなければならない。」そう考えるのではなく、「今、自分は何を感じているのか?」と問いかけてみる。
本書は、そんな当たり前だけれど忘れてしまいがちなことを、思い出させてくれる一冊だった。

EC用公式アカウント