【書評】実力を100%発揮する方法
はじめに
「実力を100%発揮する方法」というタイトルは、ビジネスパーソンにとって非常に魅力的だ。さらに著者は、世界最大のコーチング組織「CTI」の前CEOで、スタンフォード大学などでも教鞭を執るコーチ、シャザド・チャミン。どのようにすれば人は本来の能力を発揮できるのか、興味を持って読んだ。
本書の内容は、何か高度な技術を身につけるというものではない。鍵となるのは「PQ(Positive Intelligence Quotient/ポジティブ・インテリジェンス)」である。PQを高めることで、感情や思考に振り回されず、本来持っている能力を発揮できるようになるという。
本書では、PQを高める方法として、大きく3つの考え方が紹介されている。
「妨害者」を弱める
この本での妨害者とは、心の中にあるあなたの敵である。無意識のうちに習慣化してできあがった様々な心のパターンであり、このように分類される。
・裁判官
・潔癖症
・八方美人
・優等生
・犠牲者
・理屈屋
・こわがり
・移り気
・仕切り屋
・優柔不断
この妨害者の中の一番のボスは「裁判官」であり、裁判官により不安、ストレス、怒り、挫折感、悔しさなどが生み出される。
PQをあげるには、これらの妨害者の力を弱める必要がある。
例えば、仕事でトラブルにあった時に、「この問題は裁判官が作った解釈では?」と一歩引いて見る。そこで、「あ、今、裁判官が出てきている」と一歩引いて自分の思考を見る。この「気づくこと」が、妨害者の力を弱める第一歩になる。
賢者を強める
妨害者の反対側にいるのが「賢者」。本書では賢者の力を、
共感
探求
革新
方向づけ
実行
の5つに分けてる。
例えば、相手に腹がたったとき、裁判官の気持ちだと、「なんでこんなことになるんだ」となるが、賢者であれば、
・何が起きた?
・なぜこの判断になった?
・仕組みを変えたら再発しないんじゃないか?
と考える。
つまり、「誰が悪いのか」ではなく、「この状況から何を学び、どう活かすか」という視点に切り替える。
同じ出来事でも、妨害者の視点と賢者の視点では、その後の行動がまったく変わってくる。
「PQ脳」を筋トレする
では、妨害者を弱め、賢者を強くするにはどうすればいいのか。本書で紹介されているのが、「感覚に集中する」というトレーニングだ。
毎日の生活
歯を磨くときに、歯ブラシが歯や歯茎に触れる感覚を意識する。
シャワーを浴びるときには、水が身体に当たる感覚に集中する。
運動
ランニングをするときに、数分間だけ周囲の景色を細かく観察し、色や質感に意識を向ける。
鳥の鳴き声、自分の足音、呼吸など、耳から入ってくる感覚に集中する。
食事
食べ物の歯触りや香りを感じながら、味わって食べる。
ポイントは、「考える」のではなく「感じる」ことだ。
そして、実際に妨害者が出てきたときには、次の3ステップで切り替える。
STEP 1 気づく
「あ、今、裁判官が出てきている」と、自分の状態に気づく。
STEP 2 10秒間、感覚に集中する
指をこすったときの感触、呼吸、足の裏など、身体の感覚に意識を向ける。
STEP 3 賢者モードに切り替える
「この状況から何を学べる?」
「何がボトルネックなんだ?」
「どうすればもっと良くできる?」
と考える。
つまり、感情的な「自動反応」を一度止めて、そこから自分で行動を選び直すのである。
スマートフォン時代に「感じる」ということ
この本を読んで、特に印象に残ったのが「感覚に集中する」という考え方。
「実力を発揮する」というタイトルから、最初は知識を増やしたり、思考力を鍛えたり、メンタルを強くしたりするような内容を想像していた。しかし、実際には「感じること」が重要だという。
考えてみれば、スマートフォンが登場してから、私たちは少しでも時間があればスマートフォンを見るようになった。
・電車に乗ればニュースを見る。
・待ち時間があればSNSを見る。
・食事をしながら動画を見る。
常に外から情報を取り込み続けている。その結果、目の前にあるものをじっくり見たり、音を聞いたり、身体の感覚を感じたりする時間が減っているのではないだろうか。
本書がいう「感覚に集中する」というトレーニングは、単なるリラックス方法ではない。外から入ってくる情報や頭の中の思考から一度離れ、目の前の感覚に意識を向けることで、自分の思考や感情を客観的に捉えるためのトレーニングなのだと思う。
これは、稲盛和夫が説く「有意注意」にも通じるものがある。有意注意とは、目的や意図を持って、真剣に意識や神経を対象に集中させることだ。
PQを高めるための「感覚に集中する」という訓練も、結局は自分の意識を意図的に対象へ向ける練習である。
実力を100%発揮するために必要なのは、必ずしも新しい能力を身につけることだけではない。自分の中にある「妨害者」に気づき、感情に流されず、目の前のことに意識を集中する。そして、そこから最善の行動を選択する。
情報が溢れ、常にスマートフォンで外部から刺激を受け続ける現代だからこそ、「感じる」「集中する」という、一見すると当たり前の能力を意識的に磨くことには、大きな意味がある。
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