【書評】嫌われる勇気
本書は、アドラー心理学をもとに、「他人の評価に振り回されず、自分の人生を生きるにはどうすればよいか」を、哲学者と青年の対話形式で描いた一冊である。数ある自己啓発書の中でも、読者の価値観を根本から揺さぶる内容となっている。
すべての悩みは「対人関係の悩み」
本書の根底にある考え方が、「すべての悩みは対人関係から生まれる」というものである。
私自身、この考えには強く共感した。もし本当に自分一人だけの世界に住んでいたなら、
・劣等感
・承認欲求
・嫉妬
といった感情は生まれないだろう。
一方で、人を幸福にするのもまた人間関係である。つまり、人間関係は悩みの原因であると同時に、幸福の源でもある。本書は、その人間関係をどう築けば幸福になれるのかを問いかけている。
人は過去ではなく、「今の目的」のために行動している
本書で最も印象的だったのが、「人は過去ではなく、今の目的によって行動している」という考え方である。
一般的には、「過去の経験が現在をつくる」と考えがちだ。しかしアドラーは、過去の出来事そのものではなく、「現在の目的」が行動を決めていると説く。
私は、この考え方を「過去は変えられないが、未来に向けた選択は変えられる」と理解した。
例えば、会社の業績や収入など、現実には過去の積み重ねによって生まれる結果は存在する。それは因果応報と言ってよいだろう。
しかし、その結果を前にして、
・「もうダメだ」と諦めるのか。
・「ここからやり方を変えよう」と考えるのか。
この選択は、過去ではなく現在の自分が決めている。
過去の事実は変えられないが、その事実にどう向き合い、将来、どのような目的で、どのように行動するかは、自分で選ぶことができる。
今の行動は「今の目的」のために行なっていると理解できる。
「人生を変えるのに過去は関係ない。今日からでも人は変われる。」
アドラーは、人はいつでも変われると説く。
私も、人は変わることができると思う。一方で、実際に変われない人が多いのも事実である。
その理由の一つは、現状にもメリットがあるからだ。
「変わりたい」と言いながらも、今の生活には安心や安定がある。未知の未来より、不満があっても慣れた現状を選んでしまうのは自然な心理である。
さらに、長年の習慣はライフスタイルとなり、「それが自分らしさ」になる。そのため、考え方を変えようとしても、行動まで変えることは簡単ではない。
だからこそ、「今の目的」が変わらなければ、人は変わらない。逆に言えば、目的そのものが本気で変われば、人は驚くほど大きく変わることもできる。
幸福とは、貢献感である
本書では、幸福とは「誰かの役に立っている」という貢献感であると述べられている。ここで重要なのは、承認欲求を満たすものではない。
承認欲求を満たすために人の役に立とうとすれば、自分ではなく他人の期待に応える人生になってしまう。
そうではなく、自分の意思で自由に選択し、その結果として貢献感を感じられることが、幸福につながるという考え方である。
まとめ
本書は、「人は変われる」という希望を与えてくれるだけではない。
過去は変えられない。しかし、その事実をどう受け止め、これからどのような目的を持って生きるかは、自分自身で決めることができる。そして、その先にある幸福とは、他者との比較や承認ではなく、「誰かの役に立っている」という貢献感の中にある。
この考え方には、稲盛和夫氏の「利他の心」にも通じるものを感じた。自分のことだけでなく、会社の経営にもいかせる実用的な学びの多い一冊である。

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