【書評】V字回復の経営 三枝匡
三枝三部作の最終作。建設機器大手コマツの子会社でありながら、その中で赤字であった子会社をV字回復させた実話に基づくストーリーである。
単なる経営理論ではなく、「実際に企業をどう変えたのか」が具体的に描かれており、経営者や管理職だけでなく、組織改革に関わるすべての人にとって参考になる一冊。
赤字事業部を立て直す
舞台は、売上3,000億円規模の太陽産業。その中でアスター事業部は3年連続赤字という状況に陥っていた。
その立て直しを託されたのが黒岩莞太である。黒岩は、五十嵐、川端らとタスクフォースを結成し、組織改革に着手する。
興味深いのは、大規模な人員整理を行わず、組織のリストラで、トップのメンバーの入れ替えと組織の仕組みを変えることで事業を再生させた点である。
つまり、「商品や販売が悪い」のではなく、「組織の設計」と「人の動き方」が変われば、同じ人材でも業績は大きく変わることを本書は示している。
スモール・イズ・ビューティフル
本書での大きな組織変更は細分化、「スモール・イズ・ビューティフル」である。
今回の改革は、スモール・イズ・ビューティフルという考えのもと、組織を3つのビジネスユニットに分けて、それぞれに社長をおいた。
アスター事業部は3つのビジネスユニットへ分割され、それぞれに社長を置く組織へと生まれ変わる。
しかし、単純に組織を細分化したわけではない。改革の前にはタスクフォースは約500枚のカードを使い、
・経営の強み・弱み
・戦略の強み・弱み
・組織の強み・弱み
を徹底的に洗い出した。また、現状を客観的に分析し、全員で問題意識を共有したうえで、細分化を行ったのである。
この考え方は、稲盛和夫氏のアメーバ経営にも通じるものがある。
細分化には次のような効果がある。
・顧客に近づける
・意思決定が速くなる
・組織内の風通しが良くなる
・専門性の高い製品開発ができる
・営業も専門家として強くなる
・若手に経営経験を積ませられる
また、改革には必ず抵抗勢力が現れる。
本書では抵抗者を
・心情抵抗型
・確信抵抗型
・過激抵抗型
と細かく分類し、それぞれへの対応方法まで具体的に紹介している。理論書ではなく実体験に基づく内容だからこそ、このような理論では分からない問題とその解決方法が、非常に説得力がある。
改革を支える3つの考え方
本書では改革のコンセプトとして、以下をあげている。
・商売の基本サイクル
・勝ち戦の循環
・事業変革の3つの原動力
創って、作って、売る
「創って、作って、売る」を「企業競争力の原始的構図。そして、それをスピードよく回すことが顧客満足の本質」としている。
特に印象的だったのが「創る」の重要性である。
製造業以外では「創る」がないようにも思えるが、本書を読むと、どの業種にも「新しい価値を創る」という工程は存在すると感じた。中小企業は顧客との距離が近い。だからこそ顧客の声を素早く吸い上げ、
「創って、作って、売る」
というサイクルを高速で回すことが競争力につながるのだと感じた。
勝ち戦の循環
成長企業には「勝ち戦の循環」があるという。
流れは非常にシンプルである。
・勝負の戦場は明確?
・伸びる市場セグメントに参入
・そのセグメントに競合より先に参入
or
勝つまで執拗・集中的に勝負
・そのセグメントでNo.1に
・製品陳腐化、市場熟成化にようる相対的後退
=>「伸びる市場セグメントに参入」に戻る
重要なのは、「今勝っている市場」に満足せず、次の成長市場を探し続けることである。中小企業でも市場規模は小さくて構わない。自社が勝てる市場を見つけ、「創って、作って、売る」を高速で回すことが重要だと感じた。
事業変革の3つの原動力
事業変革には
・戦略
・ビジネスプロセス
・マインド・行動
の3つが必要だという。
その中でも最も重要なのは「マインド・行動」である。戦略や業務プロセスは、あくまで道具に過ぎない。社員が戦略に共感し、自ら動こうという気持ちになって初めて組織は変わる。
まとめ
本書は、実話をもとにした企業再生ストーリーである。
読み進めるうちに、「本当にこんなにV字回復するのか?」と驚かされた。しかし、それは奇跡ではなく、現状分析・戦略立案・組織改革・人の意識改革を着実に実行した結果であることがよく分かる。
「組織を変えること」と「人を動かすこと」は別物であり、最後に企業を変えるのは社員一人ひとりのマインドであるという点である。
売上が伸び悩んでいる企業や、組織改革を進めたい経営者にとって、本書には実践できるヒントが数多く詰まっている。
三枝匡氏の著書の中でも、理論と実践が最も高いレベルで融合した一冊であり、戦略経営を学びたい人にはぜひ読んでほしい名著である。
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