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【書評】敗れざる者 ダスキン創業者 鈴木清一の不屈の精神  神渡良平

【書評】敗れざる者 ダスキン創業者 鈴木清一の不屈の精神  神渡良平

はじめに

一般的にダスキンは、ハウスクリーニングの会社である。稲盛和夫が「事業家とは、何の変哲もないことを事業にする才覚をもった人」と語ったように、その創業者である鈴木清一は、「掃除」という誰でもできる行為を巨大なビジネスへと昇華させた事業家である。そんな鈴木清一という人物に関心を抱き、本書を手に取った。

本書を通してよく分かるのは、鈴木清一が宗教的な考え方を基盤に、自身の事業家としての能力を最大限に発揮し、社会に貢献した人物であったという点である。
「損と得とあらば損の道をゆく」という言葉は、一般の人が口にすれば綺麗事に聞こえる。しかし、鈴木清一の生き方を追うと、この言葉を真に実践していた人物であったことが理解できる。

苦難のある人生

鈴木清一の人生は、苦難の連続であった。幼少期は極貧の中で育ち、養子に出される。結核を患い、何度も死を意識した。婿養子先では義父の会社に勤めるが、自身の考えとはまったく合わず、S・C・ジョンソン社との軋轢の末、創業した会社から追放されることとなる。

しかし、会社を追放され失意の中にありながらも、彼は「会社を乗っ取られたことを甘んじて受けよう。ここから新しい芽が芽生えるよう、心して準備しよう」と語り、53歳から再出発を果たす。

その後立ち上げたダスキン社は、1967年以降、売上を19億円、40億円、80億円、140億円と倍々に成長させ、さらにミスタードーナツ事業を展開していく。精神論ではなく、結果として証明された再起である。

二つの革命

鈴木清一は事業家として、二つの大きな革命を起こした。一つは新商品の開発であり、もう一つは新しい流通、フランチャイズである。

ダスキンはハウスクリーニングの会社というイメージが強いが、実際には化学ぞうきんを日本で最初に事業化した会社である。また、日本で初めてフランチャイズを導入した企業でもあり、鈴木清一がビジネスマンとしても卓越した能力を持っていたことが分かる。

では、なぜダスキンは「掃除屋」というイメージが定着したのか。化学ぞうきんを届け、交換する際に清掃を行う。その清掃の質が高く、顧客満足が積み重なった結果、社会的に掃除の会社として認知されるようになったのだろう。これは筆者の推測であるが、鈴木清一の考え方が現場にまで浸透していたからこそ可能であったと考えられる。

心に残った言葉

本書には、鈴木清一の精神を象徴する言葉が数多く登場する。

・りきむなゆるむなこだわるな生かさるるまま水のごとくに
・はかなきは金銭、願りなきは地位、人の思惑も苦にせず、ただひたむきに懺悔の一路を
歩み、己れを捧げて報恩の托鉢を致します
・商売とは人の心の美しさを なりわい だしつくす生業 あなたの商人の姿に前だれをかけたみ仏をみたい
・損と得とあらば損の道をゆく
・仕事の第一は人間をつくること
・利益は喜びの取引から生まれる

これらの言葉から、商売を単なる金儲けではなく、人を磨き、社会に尽くす営みとして捉えていた姿勢が伝わってくる。

本書から得られる三つの示唆

工夫と創造の重要性

鈴木清一が川原商店に勤めていた戦時中、原料不足により従来の蠟が手に入らなくなった。その際、捨てられていたステアリンピッチに木蠟を混ぜ、代用蠟を開発し、URワックスとして販売した。

独立後も、日本家屋向けの滑らない床用ワックス、ダストコントロール・システム、化学ぞうきんの開発、そして日本初のフランチャイズ導入など、常に工夫と創造があった。
誰でもできる「掃除」を、工夫と創造によって大きな事業へと変えた点は、すべての企業に通じる事業の本質である。

理論と理念で伝える重要性

日本で初めてのフランチャイズということで、当初は訝しく思われたであろう。それにもかかわらず、自身の事業を畳み、フランチャイズに賭けた人々が存在した。それは、鈴木清一の理論と理念が揃っていたからに他ならない。

どちらか一方が欠けていれば、人は本気で動かない。代理店ビジネス、顧客への販売においても、理論と理念の両立が不可欠であることを、本書は示している。

人間は変われない場合もある

鈴木清一と本妻との関係は、非常に厳しいものであった。
本妻は川原商店社長の娘であり、結婚当初から鈴木清一を使用人のように見ていた。鈴木清一が結核を患った時や、修行として家を出た時も、世間体を理由に離婚は認められなかった。

会社を追放された際にも、本妻は鈴木清一を叱責し、実家に迷惑をかけるなと責め立てる。
本書を読む限り、鈴木清一は信仰深く、人格的にも事業家としても尊敬される人物である。しかし、本妻は最後まで彼を見る目を変えなかった。

ここから示唆されるのは、「人は必ずしも変われるわけではない」という現実である。
会社経営においても、考えを変えられる人と、どうしても変われない人が存在する。その見極めと判断は、早い段階で行う必要がある。

まとめ

鈴木清一が宗教家であったこともあり、本書では宗教について強く語られている。宗教が絡むと読みにくいと感じる読者もいるかもしれない。しかし、宗教的理念が抽象論に終わらず、事業や社会貢献として具現化された点は、本書の大きな価値である。

また、鈴木清一の事業観には稲盛和夫と通じるものがあり、事業の立ち上げから販売、組織運営に至るまで、多くの示唆を与えてくれる。

伝記本ではあるが、事業を事業に携わる者にとって、学びの多い一冊である。

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